ホームルームが終わると、
恵弥くんは素早く立ち上がってスタスタ歩いて行く。
追いかけようとしたけれど、どんくさい私は
カバンに荷物を詰め込んでいて
なかなかすぐには動けなかった。
ようやく帰りの支度が出来たので
急いで玄関に向かうと、
恵弥くんははるか先を歩いていた。
「け、恵弥くん!」
その背を追って、大きな声で彼を呼ぶ。
恵弥くんは振り返ることはしなかったけれど立ち止まった。
全速力で駆けてしまったので息が苦しい。
肩で息をして呼吸を整えた。
その間も、恵弥くんは動かずに待っていてくれた。
「恵弥くん。ごめん、私、怒らせた?」
「なにが?」
「そうだよね、恵弥くんにだって悩みはあるよね。
それを私は……」
そこまで言うと、恵弥くんは顔だけで振り向いて、私を見た。
鋭い瞳が、私を射抜く。
逃れられなくて、逸らしてしまいそうだった。
「別に。気にしてへんよ。
多分、お前が抱えてる悩みに比べたら、
俺のなんてちっさいんやろなと思うよ」
「で、でも……っ」
「あー、ほんまにお前は、めんどくさい奴やな」
大きな声で言い放つ恵弥くんは、
くるりとこちらを振り返って私と向かい合うと、
私のおでこをピン、と軽く弾いた。
「俺がええって言うてるんやから、ええんや。
別に怒ってへんし、気にしてないねん。
逆になんでお前が気にしてんねん」
「だ、だって……」
「大丈夫だよ。俺は、男やからな」
そう言って、恵弥くんは柔らかく笑った。
―きゅーん。


