読めないあなたに小説を。




言ってしまってから、余計なことを言ったなと後悔する。
けれど恵弥くんはあまり気にしていなそう。
飴玉をガリっと噛んで、笑った。


「お前のこと、好きな男やったらどうする?」


「えっ?」


「冗談や。そんな男いるわけねぇしな」


酷い。
私にだって、そういう男の人くらい
いてもいいじゃない。


なんで恵弥くんって、本当は優しいのに
こういうこと言うのかな。


誠治さん、本当の恵弥くんが分かりません。
この人は、どの姿が正解なんでしょうか。


「恵弥くんは、誰からも好かれて、人気もあって、
 その上自由で、何にも悩みなんてないんだろうね。
 正直羨ましいよ」


早口で言うと、恵弥くんは黙り込んでしまった。
怒ったかな、と不安になる。


その横顔はなんだか悲し気に見えて、
どうしてか、泣き出してしまいそうに見えた。


「俺にだって、悩みくらいあるよ」


「えっ?」


思いがけない言葉が返ってきて、
慌てて声を発するけれど、
チャイムの音にかき消されてしまった。


そのままホームルームが始まり、
恵弥くんはそっぽを向いていた。


話しかけるタイミングはその後も掴めず、
結局帰りのホームルームが終わるまで、
恵弥くんと話をすることはなかった。