読めないあなたに小説を。




「柚子味なの。これも美味しいから、食べてみて」


「へぇ、柚子ね。
 俺、食ったことないねん。柚子」


そう言ってポケットに飴玉をしまった恵弥くんは、
前髪をかきあげた。


ポタリと水滴が落ちる。
その様が妙に大人っぽくて、
不覚にもドキッとした。


私ったら、何を考えて……。


「もう、消灯やな」


「そ、そうだね」


「明日の朝飯は、ちゃんと食えよ」


私の貧血を心配してくれている。
そのことが嬉しくて、私は頷いた。


私が頷いたのを確認すると、
恵弥くんはスタスタと歩いていく。


その背中を見つめて、思い切って言った。


「お、おやすみ!」


恵弥くんが立ち止まって振り返る。
飴玉を咥えたままの彼が、
少しだけ微笑んで、目を細めた。


「おやすみ」


驚くほどの低い声。
心地よく響く、四文字の言葉。


お風呂上がりだからか、ポワっと熱が上がっていく。


恵弥くんの背中を、
私はいつまでも見つめていたいと思った。






部屋に戻ると、櫻田さんたちが私を待っていた。