読めないあなたに小説を。




「後はお前がやれ。もう1人で出来るやろ」


「う、うん。ありがとう」


包丁を受け取って残りの材料に手を伸ばす私を、
恵弥くんはじっと見つめていた。


なんだろうと思って首を傾げると、
少しだけ目を逸らされた。


「な、なに?」


「なんも」


訳が分からず、なんだか妙に恥ずかしくなって
手元の作業に集中した。


恵弥くんのように上手く出来なくて、苦戦する。


むぅ、とじゃがいもを睨みつけていると、
背を向けて歩き出していた恵弥くんが戻って来た。


「恵弥く……」


「面白くねぇな。やっぱお前、嫌いだ」


言葉とは裏腹に恵弥くんは私を抱き寄せた。
恵弥くんの胸に私がすっぽり収まる。


何が起こっているのか分からなくて、
息をひそめていた。


ドクドクと鼓動が早まる。
私、どうして恵弥くんに抱きしめられているの?


「け、恵弥くん……っ」


必死に胸を押しやるも、びくともしない。
規則正しい、恵弥くんの鼓動が聞こえてきた。


とてもいい匂いがする。
シトラスの香りが鼻を掠めた。