読めないあなたに小説を。




しばらくバスに揺られていると、
次第に眠たくなってきて、
ガクガクと意識を手放しそうになる。
それを堪えて座っていた。


「おい」


「えっ?」


寝ているはずの恵弥くんの声が聞こえた。
彼を見ると、目を閉じている。


気のせい?と思って首を傾げて、
窓の外に視線をやると、今度ははっきり聞こえてきた。


「紫月」


「け、恵弥くん。起きてるの?」


やっぱり恵弥くんの声がする。


私を呼んだ恵弥くんは、目を閉じたまま。


なんだろう、何か言われるのかな?
悪いことだったらどうしよう。


恵弥くんは思ったことをそのまま口にするから怖い。
今はもう、ネガティブなことしか考えられなかった。


「朝飯、ちゃんと食ってきたか?」


「へっ?」


「飯、食ったんか?」


「た、食べてない……」


何を言い出すのかと思えば、ご飯の話?


少し拍子抜けして答えると、恵弥くんは目を開けて、
リュックの中を漁りだした。
そして中から栄養調整食品を取り出して私に差し出してきた。


「食っとけ。顔色わりぃぞ」


「あっ……ありがとう」


恵弥くんからそれを受け取る。
また恵弥くんは目を閉じて腕を組んだ。


私はそれを開けて口に含み、ゆっくりと噛んでいく。
体の中にストンと落ちていく感覚が気持ちよくて、
なんとなくすっきりした。


食べ終わると、また恵弥くんの声が聞こえた。


「少し寝ろよ。起こしてやるから」


「う、うん」