私がもう一度お礼を言うと、
恵弥くんはその飴玉を見て、手を伸ばした。
私から飴玉を受け取って、ポケットに入れる。
さっきよりも顔を真っ赤にさせて、そっぽを向いた。
「おう、受け取っとくわ」
「あのね、帽子、洗ったから明日返すね」
「ええよ。あれはやる。別に使わんでもええけど、
もしまた苦しくなったら使えば?
少し大きくてちょうどええやろ」
「いいの?ありがとう」
「俺のが嫌やったら捨てればええし」
「そんなことしないよ!使うもん」
「お前、変な奴やな。嫌いなくせに」
あっ、笑った……。
微かにだけれど、恵弥くんが初めて笑った。
柔らかくて、優しい顔。
いつも仏頂面で覇気のない顔をしているのに、
笑うとこんなに柔らかいんだと知る。
このクラスのみんなは知っているのかな。
照れて真っ赤になる彼、無邪気に笑う彼、
泣いている女の子を助ける彼、
小さな花に目を向ける彼を。
【嫌よ嫌よも好きのうち】
誠治さんの言葉を思い出した。
私は恵弥くんが嫌い。
嫌いだけれど、彼の良さを知ってしまった。
嫌だと何度も思った。
私にないものを沢山持っている彼を。
でもそれと同じくらい、彼の人間性に惹かれてしまった。
誠治さん、あなたの言ったことは正しいのかもしれない。
そう思うのに、まだ認めたくない自分がいるのだけれど。