声がして、窓の外から目を離して恵弥くんを見た。


恵弥くんはこちらを見ずにスマホに目を落としている。


今の、私に言ったよね?


「何で助けたのかって聞いたやろ。それの答え」


「あっ、私、そんな顔してたの?」


「ああ。泣いてたしな。泣いてる女をほっとくのは
 男の恥やって、死んだ父ちゃんの口癖」


「お父さん、亡くなったの?」


「半年前に。膵臓ガンでな」


恵弥くんは、きっとそのお父さんが
とても好きだったんだと思う。


お父さんの言葉を信じて、行動に移す。
その言葉があったから、私は恵弥くんに助けられた。


恵弥くんのお父さんに感謝しないと。


「お父さん、素敵な人だね。
 そんな人がいなくなって、寂しいでしょ?」


「別に。今は新しい親父もいるし」


「そうなんだ。優しい?」


「……親父は、母ちゃんが好きなだけや」


スマホの画面を暗くして、机に伏せて置いた。


私はポケットに手を入れてガサガサ漁ると、
飴玉を取り出して恵弥くんに差し出した。


「なん?これ」


「昨日のお礼。イチゴミルク味。
 ありがとう、助けてくれて」


「……別に。偶然そうなっただけや」


「それでも、ありがとう」