読めないあなたに小説を。




「どうして、こういう優しいことが出来るのに、
 あんなに冷たくするの?
 口も悪いし、そんなんじゃみんな、
 恵弥くんの優しさなんか分からないじゃない」


「別に。俺はやりたいようにやってるだけや。
 俺が優しいかどうかなんて、別に関係ない。
 俺は優しいわけやないし。
 仮にそうやとしても、
 そういうんは分かる奴だけが分かればええもんやろ。
 「みんな」に分かってもらう必要なんてない」


「でも、誤解されちゃうよ。
 見た目も派手だし、態度が悪いと、そういう人だって」


「勘違いなんて勝手にさせとけばええんじゃ」


やっぱり、恵弥くんは私とは正反対だ。
私は嫌われることを恐れて生きているのに、
恵弥くんはそんなの知らないというように自由だ。


好かれるも嫌われるも気にしていない。


自分のやりたいようにやる。


ただそれだけ。


「恵弥くんは、強いね。
 何も悩みなんかないんだろうな」


私の言葉に、恵弥くんは反応しなかった。


そのまま沈黙が続き、
バスは車体を揺らして走り続けた。


アナウンスで「秋山~秋山」と流れて、
降車ボタンを押した。


バスはゆっくり止まる。


お金を払って先に出て、空を見上げた。


夕焼けが、とても綺麗。


しばらくしてから恵弥くんが降りてきた。