読めないあなたに小説を。




そういうものだろうか。


初めから、期待をしない。


私は、思えば期待ばかりの日々なのかもしれない。


誰かが私を好きになってくれる。
この人は私と仲良くしてくれる。


昔からそうだった。


みんなと笑い合えることを期待して、人に関わる。
だから、拒絶された時に期待の倍以上の悲しみが襲ってくるのだ。


恵弥くんは、そんなことはないと言う。
それは彼が、誰にも期待していないから。


「恵弥くん、一つ聞いていい?」


「あ?」


「これ。この鉛筆、恵弥くんがやったの?」


私はスマホを取り出して恵弥くんにタンポポの写真を見せた。
それを見た恵弥くんはみるみるうちに顔を真っ赤にさせた。


「なっ!何撮ってんねん!」


「ねぇ、これ、恵弥くんがやったんでしょう?」


もう私は、確信したように問いただした。


分かってしまった。
これは紛れもなく、恵弥くんの行動だって。


だって、恵弥くんは今、私を助けてくれたんだもの。


「だったらなんだよ。あかんのかい」


「だ、ダメじゃないよ。なんか……意外で」


恵弥くんは恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしている。


その髪の色と同じ赤。


なんだかおかしくて笑うと、
恵弥くんが私に帽子をかぶせた。


深く押し込まれるから、また視界が狭くなる。


やっぱり、あの鉛筆は恵弥くんの行動だった。


律儀にも、名前のシールが貼られた鉛筆。
彼が見せた、小さな優しさ。


そして今、この瞬間も彼は優しさを見せた。


もしかして、誠治さんが言っていた真実って、こういうこと?