読めないあなたに小説を。




この車内には、私と恵弥くん、
運転手さんの三人しかいない。


しんと静まり返る中、恵弥くんは窓の外を眺めていた。


手はまだ、繋がれたまま。
なんとなく離せなくて、そのまま繋がれている。


落ち着いた空間の中、私は完全に落ち着きを取り戻していた。


「どこまで行くん」


「あっ、秋山まで」


「ふうん。料金、いくら?」


「200円」


恵弥くんを見ようとしたけれど、
帽子が邪魔をして見えない。


恵弥くんと繋いでいない方の手で帽子を上げると、
恵弥くんはその帽子をまた深くかぶせた。


「まだかぶっとき。俺の顔なんて見たくないやろ」


「そ、そんなんじゃ……っ!
 あれは別に恵弥くんが嫌だからとかじゃ……」


顔を上げられなかったのは、
私が恵弥くんを嫌いだからだと思われたみたいで、
必死になって訂正する。


すると、恵弥くんはおもむろに帽子を取った。


視界が広くなり、恵弥くんの赤が飛び込んでくる。


心なしか、恵弥くんの瞳が、
いつもよりも柔らかい気がした。


「お前は、俺のことが嫌いやろ」


「き、らい……だけど……」


「なんだ。お前ちゃんと言えるんやな。嫌いやって」


「ご、ごめんなさい」


どうして「嫌い」って言葉が出たんだろう。
いつもの私なら、そんなこと人に言えないのに。


「何で謝る?別にええやろ。
 人には好き嫌いがあるんやから。
 万人に好かれたいと思ってるわけやないし」


「でも、人に面と向かって嫌いって言われると傷付くでしょう?」


「はぁ?んなもん気にしてんのか?
 傷なんかつかん。初めから期待なんかせぇへんしな」