「バス、乗るんか?」
唇を噛みしめて、涙を堪える。
恵弥くんの顔が滲む。
ただ荒い息を吐くことしかできなかった。
ぎゅっと目を瞑ると、めまいがしてクラクラする。
もう一度目を開けても、恵弥くんはそこにいた。
恵弥くんは振り返って女子高生たちを見ると、
自分の帽子に手をかけた。
それを脱ぐと、髪がボサボサになっていた。
その髪をガシガシ掻いて、
帽子をこちらに移動させた。
思わず目を瞑る。
ふわりと、頭に何かが乗った。
目を開けると、少し大きめの帽子をかぶっていた。
恵弥くんのだ、と思う。
ツバ付きの帽子を深くかぶることで、視界が覆われる。
女子高生たちからは私の顔は見えないだろう。
恵弥くんが私の手から荷物を奪い取った。
両手が解放されて、軽くなる。
重いそれを、恵弥くんは軽々と片手で持ってしまった。
そして、空いた方の手で、恵弥くんは私の手を握った。
意外と大きなその手は、冷たい。
私の熱を、溶かしていく。
まず最初に、めまいが消えた。
そして次に、腹痛が消える。
だんだん体が楽になっていく。
そのうちにバスがやってきて、
恵弥くんは「このバスか」と聞いてきたので、頷いた。
恵弥くんは私の手を引いて、バスの前までやってきた。
女子高生たちを押しのけ、バスに乗る。
その子たちは私だとは気づかなかったようで、
「なにあいつ」「感じ悪い」と、恵弥くんの悪口を言う。
そんなこと気にもしないで、
恵弥くんは一番後ろの広い席に私を座らせ、
その隣に腰を下ろした。
バスは私たちだけを乗せて、発車した。


