読めないあなたに小説を。




私は格好も地味だし、
顔だって変わっていないだろう。


すぐにばれてしまう。
どうしよう、次のバスに乗らないと、
もうその次のバスは二時間後だ。


暗くなってしまう。
帰りが遅くなると、心配性の両親に迷惑をかけてしまう。


それだけは絶対に避けたいのに。


それでも、足が動かない。
一気に吐き気が襲ってきた。
お腹も痛い。めまいがする。
失神して倒れてしまいそう。


どうすればいいのだろう。

誰か、助けて。


「おい」


俯いた視線の先に、黒い運動靴が見えた。
ダボダボに緩んだズボンが見える。


顔を上げられずにいると、上から声が降ってきた。


「紫月」


この声……。
この低い声は、一人しかいない。


恵弥くんだ。


こんなに最悪なことはない。
この状況で、更に私の天敵に会ってしまうなんて。


何を言われるんだろう。


地味な恰好をバカにされるのだろうか。
こんな風に怯えている様を、笑われるのだろうか。


両手が痛い。
もうこの荷物を持っているのでさえしんどかった。


気持ち悪い。吐いてしまいそう。


「何してんねん」


「な、何って……」


掠れた声は女子高生たちの談笑の声にかき消される。


もう私なんかほっといて、どこかに行って……
と思いたかったのだけれど、
その運動靴は視界からなくなることはない。


ずっとそこにある。


恵弥くんが、目の前に立っている。