読めないあなたに小説を。




誰かに、髪を撫でられていた気がする。


ゆっくり目を開けて起き上がると、カタンと音がした。


誰かいるのかと思ってカーテンを開けて確認する。


そこには誰もいなかったけれど、扉が少しだけ開いていた。


誰だろう。松村先生かな。


喉が渇いて、欠伸を噛み殺しながら、
カバンに入れておいたジュースを飲む。


少し寝たからか、もう胸がざわざわすることはなかった。




ベッドから移動して先生の椅子に座り、
机にルーズリーフを広げた。


さっきの夢を小説にしようと思いつき、
夢を忘れてしまわないように、一気に書いていく。


書きたいものがあってスラスラと手が動く時は当たり。
最後まで書ける小説だ。


私は途中で断絶してしまうことが多いのだけれど、
これはいけるかも。


しばらく小説を書いて、
唐突に耳にチャイムの音が飛び込んできた時、顔を上げた。


時計を見ると、もうお昼休みの時間だった。


そんなに書いていたかな、と自分の集中力に驚く。


大きく手をあげて伸びた時、ふいに扉が開け放たれた。


「あっ……」


赤。
最初に目に飛び込んできたのは、赤い色。


恵弥くんは呆けたように私を見た。


今朝のことが蘇り、気分が一気に沈んでゆく。


気まずいので知らないフリをし、小説に目を落とした。