読めないあなたに小説を。




チャイムが鳴って、ホームルームが始まったなと思う。


今頃先生が出欠確認を始めて、
私が来ていないことを少し不思議に思うだろう。


あの先生のことだからそんなに気にしないかも。
その方がいい。
こういう時の私は、ほっといてほしいのだ。
しばらくしたら落ち着くかもしれないから。


でも、去年だってその「しばらく」はいつまでたっても来なかった。
このまま今年も保健室登校になったらどうしよう。


「朱莉ちゃん。先生、少しここ空けちゃうけど、大丈夫?」


「はい。大丈夫です」


「そう。じゃあゆっくりしてなさいね」


先生の気配が消えて、うつ伏せだったのを仰向けに変える。
布団をかけて姿勢よく横になると、目を閉じた。


不思議。何も聞こえない。誰もいない。
この世界は私一人だけ。
すぅっと頭の中がすっきりしていく。



この世界の中に身を投じて、夢の中に落ちていく。
夢の中の私は誰にでも好かれる人気者で、
言いたいこともはっきり言える自由人だった。


そばで真美ちゃんが笑っている。


ああ、真美ちゃん。戻ってきてくれたんだね。
私、ずっと会いたかった。


……でもこれは夢だから、本物じゃない。
昔のようにはっきりと言葉を口に出せないし、
真美ちゃんは戻ってこない。


夢の中までも気分が落ちそうになる。


そんな時、眩い光が射しこんだ。
その光の眩しさに目を細めると、光の先に誰かが立っている。


陰になっていて、その顔はよく見えない。


その人はゆっくり私に近付いてきて、私に向かって手を伸ばした。


誰だろう。分からないけれど、惹きつけられるように私も手を伸ばした。
その手に触れると、ポカポカと温かい何かが、
胸の中にすっと入り込んでくる。


思わず笑みをこぼすと、相手も笑った気がした。



その人の周りを、オレンジや黄色の光の粒がキラキラと舞う。


手を重ねた私の周りにも、光の粒が伝染した。


もう一度キラリと光が射して、光の粒が一斉に弾けた時、
私は夢の中からゆっくりと現実に戻っていった。