読めないあなたに小説を。







昨日のタンポポの写真をぼうっと眺めながら登校した。


何度考えても彼がそういうことをする人には思えない。


別の誰かがたまたま彼の鉛筆を持っていただけなのかもしれない。


うん、絶対そうだ。
人の鉛筆を持っているなんて確率は低いけれど、
そうとしか思えない。


だって彼は、優しくない。


下駄箱で靴を履き替えていると、隣に誰かが立った。


すごく近かったから驚いて顔を上げると、
赤い髪が目に入った。


「あっ……」


思わず声を上げた。
でも恵弥くんは私なんか見えていないかのよう。
自分の上履きを出して履き替えていた。


「お、おはよう」


掠れるような声で精一杯そう言った。
これじゃあ聞こえないかもと思ったけれど、
恵弥くんがちらりとこちらに目を向けた。


切れ長の瞳は気だるげなのに透き通っている。
でも、眼光は鋭い。


恵弥くんの薄い唇が微かに開いて、
ひゅうっと息を吸い込む音がした。


おはようって返してくれるのかと思ったのに……。




「何お前。無理して声なんてかけんなや」



「えっ」


「顔に出てんで。俺のこと嫌いやろ」


「そ、そんなこと……っ」


確かに、好きか嫌いかで聞かれたら、嫌い。
でも嫌いなんて言ったら傷つけてしまうし、
不快に思うでしょ?
だから歩み寄ろうと思って声をかけたのに。


無理したのは本当。
だけどそれを指摘されるいわれはない。


おはようって言われたら、
おはようって返すのが当たり前じゃないの?


そう思ったけれど、
そんなこと言えなくて俯いてしまう。


「嫌いなら嫌いってはっきり言いや。
 俺もお前のこと嫌いやし、別に関わる気ぃもないねん」