読めないあなたに小説を。




下駄箱で靴を履き替えて外に出ると、
少し先に赤い髪を見つけた。


恵弥くんはヘッドフォンをしていて、スタスタと歩いて行く。


校門前にたどり着くと、その前に佇み始めた。


なんとなくその前を通りたくなくて、立ち止まった。


彼がふいにしゃがみ込んで何かをする。
ここからじゃよく見えなくて、気にはなったけれど、
どうせよくないことだろうと思い、考えるのをやめた。




しばらくして、校門前にタクシーが1台停車した。
学校にタクシー?と思いながら首を傾げていると、
そのタクシーに恵弥くんが乗り込んだ。


えっ?タクシーで登下校しているの?


電車やバスなんかよりもずっとお金がかかる乗り物なのに、
どうしてその手段を選んだのだろう。
不思議でならない。


彼がいなくなったので、校門前まで歩く。


さっき彼はしゃがみ込んで何をしていたのだろう。


同じようにしゃがみ込むと、そこにはタンポポが咲いていた。


随分とボロボロの形の花になっていて
誰かに踏まれたのかと思ったけれど、
よく見ると茎のところに
添え木のように花を支えている鉛筆があった。


セロテープで留められている。


誰がこんなことをしたのだろうと不思議に思っていると、
その鉛筆にはシールが貼られていて、
そこには何かが書かれていた。


よく見ようとして目を凝らして、息をのんだ。










―須藤恵弥










恵弥くんは、さっきこれをしていたの?
花が可哀そうだから?


多分ボロボロのタンポポは一人では凛と立つことが出来ないだろう。
へたり込んでしまうのだろう。


それを支えたのは、紛れもなく恵弥くんの鉛筆だった。


どうして彼が?
彼は、見た目も派手で、私にも冷たかった。
つまりはそういう人でしょう?
それなのに……。


彼の行動は意外なものだった。


ただの気まぐれだろうか。
たとえ気まぐれだとしてもこんな優しい人みたいなことをするかな?


どう考えても謎過ぎる。


あまりにも驚いたから思わず写真を撮ってしまった。


彼の立っていた場所にしばらく立ち尽くし、空を見上げた。


不思議な気持ちになるのは、このタンポポのせいなのか、
この空のせいなのか。


綺麗な鱗雲が広がっていた。