読めないあなたに小説を。




恵弥くん以降の子たちが、
自分の名前を言っていくだけの
簡単な自己紹介が進み、空気はがらりと変わった。


彼の周りの子はひそひそと何か話しかけている。
それに涼しい顔で答えていく。


恵弥くんを見つめていると、
沸々と怒りに似た感情が込み上げてきた。


どうして彼は嫌われないの?


目上の先生にも臆さず、
あんなに言いたいことをはっきり言って、
どうして彼はみんなから反感を買わないの?


私は、ちょっと口にしただけで辛い目にあったのに。
こんなに苦しんでいるのに。




自己紹介が終わり、
ホームルームもお開きになって、みんなが思い思いに席を立つ。


今日は始業式だから授業はない。
早く帰れることに喜びを覚えた。


カバンを持って教室を出て、廊下をゆっくりと歩く。


棒付きの飴玉を取り出して咥えた。


こうしていると、普通の人のように見えるかもしれないと、
いつからか飴玉は手放せなくなっていた。


強くいたい。
強い私を見せたい。
本当の私は弱いから、虚勢を張っていたい。


その欲求は強くなるばかりだった。