読めないあなたに小説を。




目を瞑ってスカートの上で拳を握りしめていると、
ざわついていた声がやんだ。


「おい、須藤恵弥。次お前だぞ」


「はぁ?自己紹介なんてやってどうすんねん。
 先生が名前読み上げるだけでええやんけ」


驚くほど低い声が聞こえた。
聞き慣れない関西弁に、さっきのあの男の子のものだと知る。


私はゆっくりと顔を上げて声のするほうを見た。



恵弥くんは、制服のポケットに両手を突っ込んで
椅子に大きくふんぞり返っていた。


派手な見た目と関西弁で、何か不機嫌で怒っているように見える。


そして不安の波が襲ってきた。


そんなことを言ったら、みんなから反感を買ってしまう。
孤立してしまうよ。


人がどう思われようが関係ないと思う反面、
あの時の自分に重なり心配になる気持ちもあった。


けれど、みんなの反応は驚くものだった。


「だよね、自己紹介なんて今どきかったるいし」


「さっき紫月さんだって何喋っていいか困ってたしね」


「先生―。自己紹介反対~」


 
ざわざわと声が大きくなった。


なんで?どうして?
どうして私のようにならないの?


今彼は、誰がどうみても嫌な一言を言ったはずなのに、
どうして誰も嫌がらないの?


「やって。先生どないすんねん。まだ自己紹介やるんか?」


「そんなこと言われてもなぁ。
 先生だって出欠取るのめんどくさいんだよなぁ。
 お前ら、名前だけでいいから自分で名乗ってくれよ。はい、須藤」


「さっき先生が言ったやんけ。俺のはもうみんな分かったやろ」


恵弥くんの一言で場が一気に和む。
私だけ、違和感を覚えていた。


何が起こっているの?