「大丈夫だよ。泣くことないって」
秋の体育祭でのことだった。
うちのクラスは、あと少しで学年優勝できるところに来ていた。
その大一番は、午前中最後の競技の女子の学年リレー

うちのクラスはトップ

あたしはアンカーだった。

けど

スタート直後に盛大に転んで、あっという間に抜かされてしまった。

そして逆転。

足を引きずってゴールしたあたしに、駆け寄ってくる人はまばらで、誰もが白い目で見ていた。

外の救護所にいたくなくて

無理に歩いて

無人の保健室で泣いた。
ケガの痛みより

逆転された悔しさより

皆にあんな目で見られたことが辛かった。

今までの楽しかった思い出まで、全て嫌なものに変わっていく……

その時だった。

ガララ……

保健室のドアを開ける音がして、あたしは慌てて涙を拭いた。
「東ぁ、大丈夫か?」
入ってきたのは、クラスの有名人・日下遼太だった。
「日下くん!」
あたしは、びっくりして言った。
「足痛い?なかなか戻らないから心配したよ」
日下くんは、あたしの向かいの先生用の椅子に腰を下ろした。
「弁当食った?」
あたしは首をふる。
「そ。俺もなんだ。2人分あるから一緒に食おうぜ」
日下くんはそう言うと、あたしの膝にお弁当の容器を置いた。
「今年のメニューは何かな。コロッケが良いな。俺さ~、コロッケ大好きでさ。食堂まで頼みに行ったんだよね~」
日下くんは軽快に笑って、蓋を開けた。
「お、やっりぃ!コロッケ入ってた。」