「もし、軽い気持ちで行くなら最初はよくても後から辛い思いするだけだぞ」
 父親が私に言い、母親は心配そうに私を見ていた。
 「大丈夫。頑張るから」
 そう言って立ち上がり2階への階段を上がる。
 両親が心配して言ってくれているのは痛いほど分かったし伝わっていた。
 だけれど、私は気持ちを変えることはなかった。
 受験の日、私は朝早くに家を出た。
 両親は眠そうに目を擦っていたけれど「頑張れ」と言って見送ってくれた。
 外に出ればまだ寒くて吐く息が白かった。
 受験会場前。
 受験票を持って中に入る。
 指定された席に着くとき見覚えのある姿を見かけた気がした。
 けれど気には留めなかった。
 それが玲王だということに私は気が付かなかった。
 帰り道、最寄り駅で玲王とばったり出会った。
 「よう」
 「よう。…受験今日だったの?」
 「…まあな。そっちも」
 「まあね」
 久々に2人並んで帰る。
 玲王と一緒に帰るのは私が距離をとりはじめたこともあって本当に久々だった。
 「手応えのほうはどうでしたか」
 玲王が聞いてきた。
 「まあまあかな。…どう、でした?」
 「俺もまあまあ」
 会話が途切れる。
 「じゃ、ここで」
 「あ。今日の夜おふくろが受験お疲れ様会として晩御飯皆で食べに来いって」
 「分かった。お父さんとお母さんには伝えとく」
 そう言ってそれぞれ自分の家に帰る。
 平日で帰っても親はいない。
 自室に向かい荷物を置いて部屋着に着替えたところで玄関のチャイムが鳴った。
 「はーい」
 玄関の戸を開けると先程別れたばかりの玲王がいた。
 「どうしたの」
 「家の鍵忘れたから帰ってくるまで待たせて」
 「いいけど」
 私は玲王を家の中に入れる。
 「何か飲む?」
 「何でもいい」
 そう言われたのでお客様用のマグカップに自分のと同じ飲み物を注ぐ。
 「はい」
 「サンキュー」
 リビングの白いソファに座ってる玲王にマグカップを渡す。
 受け取ると玲王はあったけぇと言いながらココアを一口飲んだ。
 「なあ、お前が受けに行ったのどこ?」
 「内緒」
 私は食卓の椅子に座る。
 「えー、受験終わったし教えてくれてもよくね?」
 「じゃあ、私が教えたら玲王も教えてくれる?」
 「…それは内緒」
 「じゃあ、私も内緒」
 えー、と子供っぽい声を上げる。