桜の花に、想いを乗せて

「話って?」
二人きりの体育館で、航平は私に尋ねた。

「ここで、航平よくバスケしてたよね。」

「ん?そうだな、いつも俺負けて、すげぇ悔しかったんだよな。琉生、強いんだよ。」

「それで私はロビーから航平の姿見つけて…」

「俺が手を振る。だろ?」

航平の前では泣かないって決めたのに、涙が止まらなくなってしまった。

もう明日から航平はこの学校にはいない。

この街にも。

「お前、俺が卒業するのが、そんなに悲しいか?」

「…うん、悲しい…」
鼻水をすすりながらそう答えた。

「そんなに悲しんでくれる幼なじみがいて、俺は幸せだな。」航平はいつもの笑顔を見せる。
そしてそっと私の頭を撫でてくれた。

「うぁぁぁーん。航平……」

「どうした?」いつもは意地悪く笑うくせに、こういう時はものすごく優しい目で私に笑いかける。
そういう所も大好きだ。

「……好き。大学なんて行かないで…」
わがままだってことは分かってるけど、言ってしまった。

「ごめんな。お前も同い年だったらよかったのに。」
私が何度も夢見てきたことを航平は口にした。

「東京いっても、たまには会いに来てね?」

「東京?誰が?」
急に間抜けな声を出した航平。

その声で私の涙は引っ込んだ。

「え?航平東京の大学行くんでしょ?」

「行くわけねぇだろ。俺がお前と離れるわけねぇから。」
あまりにも嬉しすぎる言葉のせいで、私の涙はまた溢れ出した。

「私が言ってるのはそういう好きじゃないんだけどな……。」

結局こんな形にはなってしまったが、想いは伝えようと思って、思い切って伝えた。

「分かってるよ。お前が言ってるのはこういう好きだろ?」
突如、私の視界は航平の顔でいっぱいになる。

その事に驚く間もなく、唇に暖かくて柔らかい何かが触れた。

その何かが何なのか、私は2秒ほどかけてようやく理解した。

航平とキスしてる。

しばらくして航平の唇が、私から離れる。

「航平…キス…」
驚きすぎて、まともな文章を口にすることが出来ない。

「お前が言わなくたって分かってるって。
俺も好きだよ。ずっと前から。」

1度止まった涙はまたこの瞬間に溢れ出した。


「航平……!大好き。」
言った勢いで航平に抱きついたら、その瞬間もっと強い力で抱きしめ返された。

「知ってるよ、ばーか。」

航平がどんな顔をしているのか見てみたくて、航平の腕の隙間から顔を出し、航平の顔を覗く。

「恥ずかしいからあんまり見るな。」
と言って私に甘い甘いキスをたくさんくれた。


たくさん、たくさんキスをした後、航平は私に第二ボタンをくれた。

「大学行って、私の事放ったらかしにしないでよ?」

「おう!任せとけ!お前とだけは絶対に離れねぇから。」

それって、私と結婚してくれるって事なのかな、という淡い期待を胸に私たちは体育館を後にした。