あぁ……慶兄は…分かっていたんだ。
――…最初から。
私の気持ちを知っていながら、私に触れたんだ。
どんな気持ちだったろう。私が逆なら、胸が張り裂けそうな程苦しくて、心が壊れてしまいそうで、相手を責め立ているかもしれない。
「―…ちょっとずつ……好きになって?」
グッと胸に頬を押し当てられ、慶兄の鼓動を間近で聞いた。
低く響いて伝わる声に、胸が叫ぶようだった。
何で…そんな事言うの?
もっともっと責めてよ。怒ってよ。怒鳴ってよ。お前なんて最低だって………。
「ちょっとだけでもいいから」
何か大切なモノを包むように、でも力強く、慶兄は私を抱き締めている。
私は、慶兄だけを見て行こうと決めた筈だった。筈だったのに……。
どこかで誰かを想っているんだ。
「……好きだよ」
慶兄の言葉に、手の中の服を握り込んだ。
小さく頷く事しかできない私は、やっぱり最低な女だ。
人としては最低で最悪な人間だ。
結局、自分だけ傷付きたくないだけなんじゃないの――…?
誰も傷付けたくなくて、誰にも傷付けられたくなくて、結局は逃げているだけなんだ。
いつまでイイ子で居たいの?
そんなんじゃ、誰も私を見てくれなくなっちゃうよ?みんな居なくなっちゃうよ…――?

