海岸まで降りてしまうと、潮の香りが強くなった気がした。



砂浜に足を取られながら、波打ち際までやってきた。


波の音が間近に聞こえてきて、周りには人が居ないので、誰の声も聞こえて来なかった。


「もも」


「うん?」


隣に並んで腰を下ろすと同時に、慶兄は私の名前を呼んだ。


隣に座る慶兄を見上げると片手を頬について、、海を見たまま真剣な顔をしていた。


潮風が、慶兄のサラサラの髪をなびかせている。



…………………ん?


返事をしたものの、いつまで経っても言葉が帰ってこない。



あ、あれー?


思わず首を傾げると、ふと慶兄が顔をこちらに向けた。



突然目が合った事に、思わず体がビクッとなってしまい、瞬きを繰り返した。



そんな私を見て、慶兄はふんわりと微笑んでくれた。


そして、手を伸ばして私の頬に優しく触れた。



流れるような綺麗な動作に、ぽかんとただ見守るしかなかった。


慶兄の形の綺麗な唇が、ゆっくり動く事に見とれてしまう。


「もも……付き合ってほしい」


「…………」


……………。


…………。


……はい?



「くっ…鳩が豆鉄砲くらったような顔だな」


クシャッと顔を崩して笑う姿も、絵になってしまう。


そんな慶兄の姿を、ただ呆然と眺めていた。




え……てゆーか…。
何か………。


ただ呆然とする私の頬を、そのまま優しくつまんで、みよんみよんといったように引っ張った。



「返事は…いつまでも待つよ。今まで通りでいいから」


優しく微笑む慶兄は、青空と海をバックに、キラキラと輝いているようだった。



「………へ…」


「…へ?」


頭が真っ白で、思考回路がショートしてしまった。



とりあえず、


「わかっ…た…」


と答えておいた。



そんな私に、慶兄は優しく微笑むと、小さく頷いた。