吉備に旅立つ日ー。
荷物は、全て、牛車に乗せ、出発となった時、帝が、見送りに来てくれた。
「しっかり、養生して参れ。
右大臣のことは、私に任せとけ。」
二人は返事した。
博雅が、宮中に戻ると、右大臣に捕まった。
「晴明は、どしておる?」
「先程、吉備に向かいました。」
「吉備にだと?!!
そんなの、帝が、お許しにならんだろう!!」
「いえ。
先程、帝も、晴明達を見送りに来てくださいました。」
「なにっ?!!
帝は、晴明なくして、平気だと申すのか?」
「晴明がいない間、左大臣にお願いするそうです。」
「誠か?!」
「はい。」
右大臣は、慌てて帝の元に行った。
帝の遣いが、右大臣が来たことを伝えた。
帝は、「通せ。」と言ったので、右大臣は、帝に会うことが出来た。
「右大臣、何用じゃ?」
「晴明のことにございます。」
「大方、聞いておる。
珱姫が、自分のものに出来なかったから、降格させたそうだな。」
「そうですが…。
このまま、吉備に行かれては、帝もお困りになるのでは…?」
「案ずるな。
私は、左大臣の抱える陰陽師に頼るのでな。
しかし、思い切ったことをしたもんだ。
お主の子息にかけられた、呪詛。
誰が、かけたものか分からぬのに…。
晴明なしに、どこまで持つかのう…。」
「そ…、それは…。」
「その時のみ、助けを求めようと思うでないぞ?
晴明の後釜に、頼るのだぞ?
地位を戻すまではな。」
「分かりました…。」
右大臣は、項垂(うなだ)れて、帰っていった。
晴明と珱姫は、吉備に旅たった。
吉備にある、晴明邸は、とある森の中にあった。
しかし、その入り口は、陰陽術で、分かりにくくしてあった。
それは、二人でゆったりとした、時間(とき)を過ごしたかったから。
吉備の屋敷には、お米がなかったので、都から、持て来た。
野菜は、吉備で買うことにした。
珱姫は、吉備に着く、3日前に、式神三体を使い、屋敷の掃除などをさせた。
数日かけて、晴明達は、吉備に着いた。
屋敷は、綺麗にされていた。
晴明と珱姫の荷物を式神達が、荷解きをした。
晴明と珱姫は、背伸びをした。
「晴明様、ここは、空気が綺麗ですね…。」
「そうやな…。
ここは、いつ来ても、落ち着く…。」
「そうですね…。」
珱姫は、「ふふふ…。」と笑った。
ある日、晴明は、いつものように、珱姫の膝枕で、うたた寝をしていて、珱姫は、扇子で、晴明を扇ぎ、ゆったりした、時間(とき)を過ごしていた。
そこに、一体の式神が来た。
「晴明様、珱姫様。
お客様が、向かっております。」
珱姫は、驚いた。
「ここの場所が、見つかってしまったの?」
「いえ。
入り口を探すのに、ぐるぐる回っています。
どうしましょうか?」
晴明は、起き上がった。
「どんな人や?」
「どこかの侍女のような格好をしております。」
「うーん…。
会ってみようか…。」
「かしこまりました。」
式神は、入り口を開けた。
侍女は、式神に話しかけた。
「あの…、この辺りに、安倍 晴明様のお屋敷があるとお聞きしたのですが…、どこかご存知ありませんか?」
式神は、にこりと笑った。
「お待ちしておりました。
晴明様達が、お待ちかねです。
晴明様の所まで、ご案内致します。
私に、ついて来てください。
こちらが、屋敷への入り口になります。
どうぞ。」
「あっ…、あの…。
どうして、私が来ることが分かったんですか?」
「ここの周りに、珱姫様の式神が、配置されてますので…。」
式神は、呪文を唱えた。
すると、木々で隠れていた、入り口が、出てきた。
「えっ…。
さっきまで、何もなかったのに…。」
式神は、「ふふ…。」と笑った。
「ここが、晴明様の屋敷と分かると、色んな人が来て、大変なことになります。
なので、このように、入り口を隠しているんです。
勿論、次回、会えるかどうかも、晴明様次第です。
入り口は、ここだけではないので…。」
「そうですか…。
でも、今日は、お会いできるんですよね?!」
「そうです。
この細道を上がって行くと、晴明様がいらっしゃいます。」
細道を上がると、晴明と珱姫が、待っていた。
「晴明様と珱姫様です。」
それでけ言うと、式神は、持ち場に戻り、侍女は、話し始めた。
「あの…、実は…、私は、とある方の、侍女をしておりまして…、私の使えてる方を見て頂きたいのです…。」
「その方が、どうかされたのですか?」
「何もないところに、蛇がいると言ったり、髪の毛が1本でも落ちていると、半狂乱になるんです。」
「会ってみな、分かりませんけど、僕と珱姫が、会いに行くんは、可能ですか?」
「分かりました。
ご案内致します。」
晴明と珱姫は、ついて行った。
侍女は、とある屋敷の前で止まった。
「ここが、主人の家です。
どうぞ、お入りください。」
晴明と珱姫は、中に入った。
主人の部屋に近付くと、怒号が聞こえた。
「妾は、呪われてなどおらぬっ!!
ただの、病じゃ!!
養生しておれば、治る!!」
これを聞いた、晴明。
「僕達が、話聞いても、無理なんちゃう?
誰と話してるんか、知らへんけど…。」
「近くのお寺の方です…。
その…、心霊現象を信じない方で…。」
「ほな、僕らが聞いても同じやん。」
「そうなのですが…。
何とかしていただきたいのです…。」
「ここまで、拒否してる人に、僕らの話が、通じるとは、思わへん。」
「どうか、会うだけでも…。」
侍女の懇願により、会うだけ会ってみることにした。
侍女は、部屋に向かって、声をかけた。
「やえこ様、安倍 晴明様と珱姫様が、参られました。」
「安倍 晴明…?」
「一度、お会いしていただければ、分かるかと…。」
「分かった。
会おう。」
侍女は、晴明達を部屋の中に案内した。
「お初にございます。
安倍 晴明と申します。
こちらは、我が妻、珱姫にございます。」
「それで、何しに参った?」
「近くに、引っ越してきまして、少しの間ですが、お世話になるかと思い、参りました。」
「少しの間?」
「はい。
ひと月後には、京に帰ります。」
「そうか…。
用はそれだけか?」
「はい。」
「嘘を申せ!
お主ら、陰陽師であろう!!
噂は、ここまで届いておるわ!!」
「そうですか。
ほんなら、嘘言うても仕方ないですね。
僕らは、あなたの侍女に頼まれて、来ました。」
「お主らも、妾、が呪われていると言いたいのか?」
晴明と珱姫は、頷いた。
「妾は、呪われてなどおらぬ!!」
「では、身体に変化はございませんか?」
「変化…?」
「そうです。
身体中が痛いとか…、痺れるとか…。」
「か…、身体中が痛いのはあるが…。」
「騙されたと思って、僕らに任してくれませんか?」
「…この痛みが、消えると申すか…?」
「僕らには出来ます。」
「ならば、取ってみよ。
出来たら、信じてやろう。」
「分かりました。」
晴明は、祝詞を書いた、着物を差し出した。
「まずは、これを着て下さい。」
渋々、やえこは、着物を着た。
すると、痛みが、消えていった。
「これは、すごい!!
痛みがなくなった!!
晴明、珱姫、そなた達を信じよう。」
痛みがなくなったことで、晴明と珱姫を信じるようになった、やえこ。
そこに 神社の人が来た。
「わたしは、すぐそこにある、沢木神社の者です。
御目通り願えますか?」
やえこは、神社の者を、部屋の中に招き入れた。
「して、神社の者が、何用か?」
「実は…、毎夜、何者かが、御神木にこのようなものを…。」
そう言って、神社の者が出したのは、藁人形だった。
それを見た、晴明はと珱姫は、顔色が変わった。
「これは…。」
「なんじゃ?
晴明。」
「これは、強い呪詛が、かけられております…。」
「なんじゃと?」
「すぐに、呪いを解かねば…。」
「解けるのか?」
「今宵、神社に、向かいましょう。
釘を打ち込んでる者を探さんと…。」
珱姫は、晴明に言った。
「神社の術式の準備に入ります。」
「分かった。
無理は、せんといてや?」
「はい。
神社の方、どの御神木に、これが刺さっていたのかを教えてください。」
「分かりました。」
珱姫と神社の者は、神社に行った。
神社に着くと、神社の者が、御神木の前に、連れてってくれた。
「ここです。」
珱姫は、御神木に、手を当てた。
「これで、大丈夫だと思います。
彼女が来ると、あたしに、分かるようになりました。
もう、御神木に打ち付けられることは、ないでしょう。
あたしが、見張ります。」
「ありがとうございます。」
珱姫は、やえこの屋敷に戻った。
「珱姫、どうやった?」
「丑の刻参りをすると、分かるよう、罠をしかけました。」
「そうか。」
「丑の刻参りが始まったら、あたしは、神社に行きます。」
「分かった。
僕は、ここで、術を成功させる。」
「分かりました。」
晴明と珱姫は、術式の準備に入った。
術式の準備を終えると、晴明達は、やえこに、説明した。
「やえこ様、僕が「いい。」と言うまで、結界から出ず、声を出さないでください。
もし、 破れば、相手にお姿が、見えてしまいます。
ご注意下さい。」
「分かったわ…。」
丑の刻ー。
誰かが、丑の刻参りに来た。
「晴明様。
来ました。
あたしは、神社に向かいます。」
「分かった。
無理したらあかんで。」
「はい。」
珱姫は、神社に向かった。
すると、一人の女が、五寸釘を藁人形に突き立て、御神木に叩きつけていた。
「死ね…、死ね…、死ね…。」
「そこまでです!!」
五寸釘を打ち付けてた、女は、珱姫の方を向いた。
「何者じゃ…?」
「陰陽師、珱姫。」
「お…、陰陽師…?
わたしの邪魔をすると…?」
「そうです。」
「出来るもんなら、やってみろ!!」
「あなたが呪っている、やえこ様は、あたしの夫、安倍 晴明様が、呪いを解いてるところです。
あなたがしたことは、無駄になります。」
「そんな…。
あの女さえいなかったら…。
頼道様は、帰ってきてくれる…。」
「頼道様…?」
「お前には、関係ないっ!!」
珱姫は、強い風を受けて、後退りした。
その間に、女は、逃げた。
珱姫は、やえこ邸に戻った。
「どうやった?」
「頼道様と名前を呼ばれてました。」
その名前えを聞き、やえこは、固まった。
「やえこ様、頼道様と言う名前に聞き覚えが…?」
晴明が聞くと、やえこは、話し始めた。
「よ…、頼道様とは、吉備に頼道様が
、来てから、妾の所に通ってきてくれていたお方じゃ…。
妻がおることは、聞いておった。
だが、「やえこの方がいい。」と言ってくれて…。」
「その方は、まだ、ここに…?」
「いや…、ここひと月は、通っておらぬ。
妾に飽いたとは、思えんし…。
どうなっているのか、分からないのじゃ…。」
「そうですか…。
そこも、僕らで、探してみましょう。
珱姫。」
「はい。」
珱姫は、式神を出した。
「あたしの式神で探してみましょう。」
珱姫は、式神に頼道を探させた。
「今日は、これで失礼します。
頼道殿のことは、明日中には、分かるでしょう。
明日、また、僕ら来ます。」
晴明と珱姫は、帰った。
次の日、やえこ邸に、晴明と珱姫は来た。
「頼道様のこと、分かりました。
あたしの式神が言うには、ひと月前に、流行病で、亡くなっていました。」
やえこは、平常心を保とうとしたが、崩れ落ち泣いた。
やえこは、初めて、人を好きになったことに気づいた。
「後は、五寸釘の女です。
あたしが思うに、頼道様の奥方なのでは…?」
やえこは、話した。
「七日ほど前のことじゃ…。
頼道様の妻名乗る者が来た。
だが、追い返した。」
「そのようなことが…。
あたしは、今夜も、御神木に行きます。
そして、彼女と話してみます。
やえこ様は、彼女の名前をご存知ですか?」
「確か…、ようこ…、と…。」
「分かりました。」
丑三つ時ー。
珱姫は、御神木の前に居た。
五寸釘の女は、また来た。
「ようこ様ですね?
頼道様の奥方の…。」
「なぜ分かった…?」
「やえこ様から聞きました。
もう、おやめ下さい。
頼道様は、ひと月前に、流行病で亡くなっております。」
「嘘を申すなっ!!」
「本当です。
疑われると思ったので、ご本人をお連れしました。」
珱姫の後ろから、出てきたのは、頼道だった。
ようこは、泣きついた。
頼道は、「申し訳ない…。」と言った。
ようこは、一緒に、旅立とうとしたが、珱姫が、真実を伝えた。
「ようこ様は、人を呪った為、頼道様とは、行けれません。
ようこ様が行くのは、地獄です。」
ようこは、地獄行くことを、気付いていたようだった。
「頼道様…。
わたしは、こんなにも、醜くなってしまいました。
もう、お会いすることが出来ません。
さようなら…。」
そう言って、ようこは、懐刀で、胸を刺した。
頼道は、泣いて抱きしめた。
珱姫は、涙を流した。
そして、やえこの所に戻り、全てを話した。
荷物は、全て、牛車に乗せ、出発となった時、帝が、見送りに来てくれた。
「しっかり、養生して参れ。
右大臣のことは、私に任せとけ。」
二人は返事した。
博雅が、宮中に戻ると、右大臣に捕まった。
「晴明は、どしておる?」
「先程、吉備に向かいました。」
「吉備にだと?!!
そんなの、帝が、お許しにならんだろう!!」
「いえ。
先程、帝も、晴明達を見送りに来てくださいました。」
「なにっ?!!
帝は、晴明なくして、平気だと申すのか?」
「晴明がいない間、左大臣にお願いするそうです。」
「誠か?!」
「はい。」
右大臣は、慌てて帝の元に行った。
帝の遣いが、右大臣が来たことを伝えた。
帝は、「通せ。」と言ったので、右大臣は、帝に会うことが出来た。
「右大臣、何用じゃ?」
「晴明のことにございます。」
「大方、聞いておる。
珱姫が、自分のものに出来なかったから、降格させたそうだな。」
「そうですが…。
このまま、吉備に行かれては、帝もお困りになるのでは…?」
「案ずるな。
私は、左大臣の抱える陰陽師に頼るのでな。
しかし、思い切ったことをしたもんだ。
お主の子息にかけられた、呪詛。
誰が、かけたものか分からぬのに…。
晴明なしに、どこまで持つかのう…。」
「そ…、それは…。」
「その時のみ、助けを求めようと思うでないぞ?
晴明の後釜に、頼るのだぞ?
地位を戻すまではな。」
「分かりました…。」
右大臣は、項垂(うなだ)れて、帰っていった。
晴明と珱姫は、吉備に旅たった。
吉備にある、晴明邸は、とある森の中にあった。
しかし、その入り口は、陰陽術で、分かりにくくしてあった。
それは、二人でゆったりとした、時間(とき)を過ごしたかったから。
吉備の屋敷には、お米がなかったので、都から、持て来た。
野菜は、吉備で買うことにした。
珱姫は、吉備に着く、3日前に、式神三体を使い、屋敷の掃除などをさせた。
数日かけて、晴明達は、吉備に着いた。
屋敷は、綺麗にされていた。
晴明と珱姫の荷物を式神達が、荷解きをした。
晴明と珱姫は、背伸びをした。
「晴明様、ここは、空気が綺麗ですね…。」
「そうやな…。
ここは、いつ来ても、落ち着く…。」
「そうですね…。」
珱姫は、「ふふふ…。」と笑った。
ある日、晴明は、いつものように、珱姫の膝枕で、うたた寝をしていて、珱姫は、扇子で、晴明を扇ぎ、ゆったりした、時間(とき)を過ごしていた。
そこに、一体の式神が来た。
「晴明様、珱姫様。
お客様が、向かっております。」
珱姫は、驚いた。
「ここの場所が、見つかってしまったの?」
「いえ。
入り口を探すのに、ぐるぐる回っています。
どうしましょうか?」
晴明は、起き上がった。
「どんな人や?」
「どこかの侍女のような格好をしております。」
「うーん…。
会ってみようか…。」
「かしこまりました。」
式神は、入り口を開けた。
侍女は、式神に話しかけた。
「あの…、この辺りに、安倍 晴明様のお屋敷があるとお聞きしたのですが…、どこかご存知ありませんか?」
式神は、にこりと笑った。
「お待ちしておりました。
晴明様達が、お待ちかねです。
晴明様の所まで、ご案内致します。
私に、ついて来てください。
こちらが、屋敷への入り口になります。
どうぞ。」
「あっ…、あの…。
どうして、私が来ることが分かったんですか?」
「ここの周りに、珱姫様の式神が、配置されてますので…。」
式神は、呪文を唱えた。
すると、木々で隠れていた、入り口が、出てきた。
「えっ…。
さっきまで、何もなかったのに…。」
式神は、「ふふ…。」と笑った。
「ここが、晴明様の屋敷と分かると、色んな人が来て、大変なことになります。
なので、このように、入り口を隠しているんです。
勿論、次回、会えるかどうかも、晴明様次第です。
入り口は、ここだけではないので…。」
「そうですか…。
でも、今日は、お会いできるんですよね?!」
「そうです。
この細道を上がって行くと、晴明様がいらっしゃいます。」
細道を上がると、晴明と珱姫が、待っていた。
「晴明様と珱姫様です。」
それでけ言うと、式神は、持ち場に戻り、侍女は、話し始めた。
「あの…、実は…、私は、とある方の、侍女をしておりまして…、私の使えてる方を見て頂きたいのです…。」
「その方が、どうかされたのですか?」
「何もないところに、蛇がいると言ったり、髪の毛が1本でも落ちていると、半狂乱になるんです。」
「会ってみな、分かりませんけど、僕と珱姫が、会いに行くんは、可能ですか?」
「分かりました。
ご案内致します。」
晴明と珱姫は、ついて行った。
侍女は、とある屋敷の前で止まった。
「ここが、主人の家です。
どうぞ、お入りください。」
晴明と珱姫は、中に入った。
主人の部屋に近付くと、怒号が聞こえた。
「妾は、呪われてなどおらぬっ!!
ただの、病じゃ!!
養生しておれば、治る!!」
これを聞いた、晴明。
「僕達が、話聞いても、無理なんちゃう?
誰と話してるんか、知らへんけど…。」
「近くのお寺の方です…。
その…、心霊現象を信じない方で…。」
「ほな、僕らが聞いても同じやん。」
「そうなのですが…。
何とかしていただきたいのです…。」
「ここまで、拒否してる人に、僕らの話が、通じるとは、思わへん。」
「どうか、会うだけでも…。」
侍女の懇願により、会うだけ会ってみることにした。
侍女は、部屋に向かって、声をかけた。
「やえこ様、安倍 晴明様と珱姫様が、参られました。」
「安倍 晴明…?」
「一度、お会いしていただければ、分かるかと…。」
「分かった。
会おう。」
侍女は、晴明達を部屋の中に案内した。
「お初にございます。
安倍 晴明と申します。
こちらは、我が妻、珱姫にございます。」
「それで、何しに参った?」
「近くに、引っ越してきまして、少しの間ですが、お世話になるかと思い、参りました。」
「少しの間?」
「はい。
ひと月後には、京に帰ります。」
「そうか…。
用はそれだけか?」
「はい。」
「嘘を申せ!
お主ら、陰陽師であろう!!
噂は、ここまで届いておるわ!!」
「そうですか。
ほんなら、嘘言うても仕方ないですね。
僕らは、あなたの侍女に頼まれて、来ました。」
「お主らも、妾、が呪われていると言いたいのか?」
晴明と珱姫は、頷いた。
「妾は、呪われてなどおらぬ!!」
「では、身体に変化はございませんか?」
「変化…?」
「そうです。
身体中が痛いとか…、痺れるとか…。」
「か…、身体中が痛いのはあるが…。」
「騙されたと思って、僕らに任してくれませんか?」
「…この痛みが、消えると申すか…?」
「僕らには出来ます。」
「ならば、取ってみよ。
出来たら、信じてやろう。」
「分かりました。」
晴明は、祝詞を書いた、着物を差し出した。
「まずは、これを着て下さい。」
渋々、やえこは、着物を着た。
すると、痛みが、消えていった。
「これは、すごい!!
痛みがなくなった!!
晴明、珱姫、そなた達を信じよう。」
痛みがなくなったことで、晴明と珱姫を信じるようになった、やえこ。
そこに 神社の人が来た。
「わたしは、すぐそこにある、沢木神社の者です。
御目通り願えますか?」
やえこは、神社の者を、部屋の中に招き入れた。
「して、神社の者が、何用か?」
「実は…、毎夜、何者かが、御神木にこのようなものを…。」
そう言って、神社の者が出したのは、藁人形だった。
それを見た、晴明はと珱姫は、顔色が変わった。
「これは…。」
「なんじゃ?
晴明。」
「これは、強い呪詛が、かけられております…。」
「なんじゃと?」
「すぐに、呪いを解かねば…。」
「解けるのか?」
「今宵、神社に、向かいましょう。
釘を打ち込んでる者を探さんと…。」
珱姫は、晴明に言った。
「神社の術式の準備に入ります。」
「分かった。
無理は、せんといてや?」
「はい。
神社の方、どの御神木に、これが刺さっていたのかを教えてください。」
「分かりました。」
珱姫と神社の者は、神社に行った。
神社に着くと、神社の者が、御神木の前に、連れてってくれた。
「ここです。」
珱姫は、御神木に、手を当てた。
「これで、大丈夫だと思います。
彼女が来ると、あたしに、分かるようになりました。
もう、御神木に打ち付けられることは、ないでしょう。
あたしが、見張ります。」
「ありがとうございます。」
珱姫は、やえこの屋敷に戻った。
「珱姫、どうやった?」
「丑の刻参りをすると、分かるよう、罠をしかけました。」
「そうか。」
「丑の刻参りが始まったら、あたしは、神社に行きます。」
「分かった。
僕は、ここで、術を成功させる。」
「分かりました。」
晴明と珱姫は、術式の準備に入った。
術式の準備を終えると、晴明達は、やえこに、説明した。
「やえこ様、僕が「いい。」と言うまで、結界から出ず、声を出さないでください。
もし、 破れば、相手にお姿が、見えてしまいます。
ご注意下さい。」
「分かったわ…。」
丑の刻ー。
誰かが、丑の刻参りに来た。
「晴明様。
来ました。
あたしは、神社に向かいます。」
「分かった。
無理したらあかんで。」
「はい。」
珱姫は、神社に向かった。
すると、一人の女が、五寸釘を藁人形に突き立て、御神木に叩きつけていた。
「死ね…、死ね…、死ね…。」
「そこまでです!!」
五寸釘を打ち付けてた、女は、珱姫の方を向いた。
「何者じゃ…?」
「陰陽師、珱姫。」
「お…、陰陽師…?
わたしの邪魔をすると…?」
「そうです。」
「出来るもんなら、やってみろ!!」
「あなたが呪っている、やえこ様は、あたしの夫、安倍 晴明様が、呪いを解いてるところです。
あなたがしたことは、無駄になります。」
「そんな…。
あの女さえいなかったら…。
頼道様は、帰ってきてくれる…。」
「頼道様…?」
「お前には、関係ないっ!!」
珱姫は、強い風を受けて、後退りした。
その間に、女は、逃げた。
珱姫は、やえこ邸に戻った。
「どうやった?」
「頼道様と名前を呼ばれてました。」
その名前えを聞き、やえこは、固まった。
「やえこ様、頼道様と言う名前に聞き覚えが…?」
晴明が聞くと、やえこは、話し始めた。
「よ…、頼道様とは、吉備に頼道様が
、来てから、妾の所に通ってきてくれていたお方じゃ…。
妻がおることは、聞いておった。
だが、「やえこの方がいい。」と言ってくれて…。」
「その方は、まだ、ここに…?」
「いや…、ここひと月は、通っておらぬ。
妾に飽いたとは、思えんし…。
どうなっているのか、分からないのじゃ…。」
「そうですか…。
そこも、僕らで、探してみましょう。
珱姫。」
「はい。」
珱姫は、式神を出した。
「あたしの式神で探してみましょう。」
珱姫は、式神に頼道を探させた。
「今日は、これで失礼します。
頼道殿のことは、明日中には、分かるでしょう。
明日、また、僕ら来ます。」
晴明と珱姫は、帰った。
次の日、やえこ邸に、晴明と珱姫は来た。
「頼道様のこと、分かりました。
あたしの式神が言うには、ひと月前に、流行病で、亡くなっていました。」
やえこは、平常心を保とうとしたが、崩れ落ち泣いた。
やえこは、初めて、人を好きになったことに気づいた。
「後は、五寸釘の女です。
あたしが思うに、頼道様の奥方なのでは…?」
やえこは、話した。
「七日ほど前のことじゃ…。
頼道様の妻名乗る者が来た。
だが、追い返した。」
「そのようなことが…。
あたしは、今夜も、御神木に行きます。
そして、彼女と話してみます。
やえこ様は、彼女の名前をご存知ですか?」
「確か…、ようこ…、と…。」
「分かりました。」
丑三つ時ー。
珱姫は、御神木の前に居た。
五寸釘の女は、また来た。
「ようこ様ですね?
頼道様の奥方の…。」
「なぜ分かった…?」
「やえこ様から聞きました。
もう、おやめ下さい。
頼道様は、ひと月前に、流行病で亡くなっております。」
「嘘を申すなっ!!」
「本当です。
疑われると思ったので、ご本人をお連れしました。」
珱姫の後ろから、出てきたのは、頼道だった。
ようこは、泣きついた。
頼道は、「申し訳ない…。」と言った。
ようこは、一緒に、旅立とうとしたが、珱姫が、真実を伝えた。
「ようこ様は、人を呪った為、頼道様とは、行けれません。
ようこ様が行くのは、地獄です。」
ようこは、地獄行くことを、気付いていたようだった。
「頼道様…。
わたしは、こんなにも、醜くなってしまいました。
もう、お会いすることが出来ません。
さようなら…。」
そう言って、ようこは、懐刀で、胸を刺した。
頼道は、泣いて抱きしめた。
珱姫は、涙を流した。
そして、やえこの所に戻り、全てを話した。



