大人になんて、ならないで。




電話をしながら、カバンを持って会社を出る。



当然ながら外はもう暗くなっていて、風も冷たくて。



思わずくしゅん、とくしゃみをすると、



頬に温かいものがぶつかった。




「『めぐちゃん』」




私を呼ぶ声が、電話口とすぐ近くで重なって聞こえた。




「……真矢くん!」



「お疲れ様」




頬にぶつかったものは、温かい缶のコーンポタージュで、



真矢くんが『どうぞ』と私の手にそれを握らせた。




「ありがとう…」



「この時間でももう結構寒いから。
風邪ひかないように気をつけて」




真矢くんはそう言いながら自分の上着を脱いで、私に掛けてくれた。




「……え…上着…」



「めぐちゃん、寒そうだから」




そんな…!



これじゃ、真矢くんが寒くなっちゃう。