放課後。

久遠先生のもとを訪れると、課題のプリントを3枚渡された。

私はガックリと肩を落とす。

「3枚はしんどいですって・・・」

「それ、今週中に提出な。つっても、どうせ出来なさそうだし、明日の放課後居残り勉強な。俺とマンツーマン」

「は!?」

思わず叫んでしまい、慌てて口を塞ぐ。

「無理無理無理無理!断固拒否です!」

「拒否を拒否する。お前だって留年したくないだろ?これは相川のためなんだ」

私は少しムッとして俯く。

「先生が私の事好きとか絶対ありえない・・・」

ぼそっとそう呟くと、先生は私の手首を掴んだ。

驚いて顔を上げると、真剣な先生の顔が目の前に映る。

何・・・?

「あの、先生・・・」

「ん?」

私は先生の足を思いっきり踏み付ける。

「気持ち悪いです。放してください」

「痛って!!」

先生の手が手首から離れる。

私は掴まれた手首を少しさする。

「教師に向かってキモイとはなんだ。キモイとは」

「事実をありのままに述べただけですが」

一体何だったんだろ・・・。

気のせいかもだけど、あの時の先生、少し怒ってた・・・?

「それより、やっぱり通常授業の宿題もあるのに3枚は拷問です。抗議します」

「寝てる相川が悪いだろー」

それはそうだけれども・・・。

私は観念して明日の放課後残ることにした。

次の日はそのおかげで朝から憂鬱だった。

「見て見てヒナ。これ、昨日彼氏から貰ったの」

紡が嬉しそうに、身につけているシルバーのネックレスを見せてくる。

「私、昨日の放課後まじ地獄だったんだけど・・・」

「どうかしたの?」

「久遠先生がキモかった・・・」

「は?襲われでもした?」

私は肩をすくめる。

「近いけど違う」

「何それ気になる!」

紡は無駄にキラキラした目で私を見てくる。

「告白されたとか?」

「いやそれ犯罪だから」

「真面目〜」

茶化してくる紡に呆れながら、私は昨日のことを思い出す。

本当に、何だったんだろう?

特に深い意味は無いのかな?私のツッコミ待ち?

「あ、ヒナ。チヅ君がこっちくるよ?」

え・・・?

紡の目線の方を見ると、そこには桐生君の姿があった。

そして紡の言う通りこちらに向かってきている。

なになになになに。

どうしよう、緊張してきた・・・。

「相川」

え、私・・・?

「ハヤTが『今日の放課後逃げんなよ』だって」

は・・・?

「どうして桐生君がそのことを知ってるんですか・・・?」

「さっき出し忘れてたプリント出しに行ったら、事情説明されて相川に伝えとけって」

あのくそ教師め・・・。

よりにもよって桐生君に言うことないじゃない!

あぁ・・・絶対やばい子だって思われた・・・。

「わ、わざわざありがとうございます・・・桐生君」

半泣き状態でそう言うと、桐生君が怪訝そうな顔をして、少し首を傾げた。

「なんで敬語?」

え、無意識に・・・。

桐生君は私の目をじっと見つめてくる。

青く見えるくらい透き通っていて宝石みたいな瞳。

イケメンな人って、パーツの全てが完璧なんだなあ。

瞳も、肌質も、髪も、声も、鼻も、骨格も、眉も、まつ毛も、スタイルも。

かっこいい・・・。

胸がきゅっと締め付けられて、思わず目線をそらす。

「同い年なんだし、そんなビビんなよ。俺、そんな怖い?」

違う!そうじゃない!

私は慌てて首を横に振る。

「あ、あんまり話したこと無かったから、タメ口は失礼かなって・・・」

しどろもどろにそう言うと、少しして桐生君の表情が和らぐ。

「真面目か」

ま、真面目・・・。

桐生君は窓の外に目を向け、空を見上げる。

「いいんじゃない?真面目なの。俺、そういう奴嫌いじゃねぇし」


ドキッ。


なにそれ・・・、どういう意味?

「じゃ、それだけだから」

桐生君は私たちに背を向けて友達のところに戻っていく。

紡が興奮したように私の背中を叩く。

「やったじゃんヒナ!」

私は崩れるようにその場にしゃがみこむ。

私、今絶対顔赤い・・・。

あんなに話せたの、初めてだ。

今日、超いい日・・・!