そんな俺の気持ちなんか、わかるはずもない恋々は、すとんと俺のすぐ隣に座った。



「ねぇね、今日ね」



今そういう可愛い声、いらない。



「調理実習で、じゃーん。これ朱里くんの分」


垂れ目が細まってふんわりと笑みが浮かぶ。


差し出されたのは、まともな見た目のカップケーキ。



そういう誰かの力が背景に見えるもの、いらない。



「おいしかったから食べてみて。ほとんどふうちゃんとヒナが作ったんだけどね」



なんかムカつく名前聞こえたな。



「あたし途中でクビになっちゃって……」



調理実習でクビ。



俺んとこ再就職に来たら一生大事に飼ってあげんのにね。とかいって。



「恋々はどこまで手伝ったの?」



カップケーキを包みから出す恋々は、照れ臭そうに返す。




「……この、チョコチップをのせる係を担当しました」



「ふーん」



じゃあチョコだけでいい。
ほかは、いらない。



つまんで食べたら、舌の上でとろける甘い味。



これ、俺の分なんだって。

食べても無くなんなきゃいいのにね。