「わかった。任せて。ネクタイなんて簡単だよ」


どんっと胸にこぶしをぶつける。


そうだね。

ほんと簡単、お前。




しゅる、と襟にネクタイが通されて、ああでもないこうでもないと奮闘中。



「失敗しすぎじゃね?」


ちょっと引くわ。


「だって……朱里君の視線が、その、気になるというか、集中が……」



しりすぼみになっていく恋々の声。



……へー。



「なんで俺が見てたら集中できないの?」



にや、俺の片側の口角はいつのまにか上がっている。



「も、もう……。その目、閉じて」


「やだ。キスでもされたら困る」


「キっ……。するわけないでしょう!?」


「あー、そっか。ファーストキスもまだのお子様だもんな」



ばかにして笑っていたら。



「キスくらい、したことあるもん……」



時が止まった。遅れて目がカッとひらく。



――七時三十五分!



テレビの中で目覚まし時計が叫んでる。