スマホを耳に当てる朱里くんは、電話の向こうへため息をついた。
「はぁ? なにやってんの?」
呆れ混じりの朱里くんが立ち上がって、カバンから財布を抜き取っている。
それをズボンの後ろポケットに差し込んで、今度は自転車と家の鍵を手に取った。
……どこかに行くのかな。
そうやって準備をする間も、ずっと呆れっぽい声で通話しているの。
「……ほんとに亜瑚ってなんでそんな馬鹿なの?」
そんなこと言いながらも、朱里くんの口元は怒ってなんかないし、むしろ笑ってて。
あたしはいつの間にか包丁を握る手を止めてた。
亜瑚って、だれだろう。



