【完】君に惚れた僕の負け。


“ごめん、遅くなって”?



どういう意味だろう。




「遅くなったって、あたしたち何か約束してたっけ?」



洗面台で手を洗う朱里くんの後ろに並びつつ問うと、「え」と鏡ごしの朱里くんは明らかな動揺。





「あ、いや、さっきのは、なんでもない」



「えー?何か約束したこと、もしかしてあたしが忘れてたりする?」




「だからなんもないし、気にすんなって」



いや、そんな動揺されたら気になる。




あわあわ、ごしごし。
朱里くんの泡だらけの両手。



その油断しまくりの脇腹に狙いを定めた。




「ちゃんと言ってくれなきゃ、くすぐるよ」




ふ、っと朱里くんがよくする上から見下すような笑みを浮かべる。