ちっとも好きじゃなかったのに――
ちっともタイプなんかじゃなかったはずなのに――





いつだって歩幅を合わせて歩いてくれた、振り返ると包み込むような柔らかい笑顔。
強そうになんて見えないのに、強がりなわたしをいつだって大きな心で受け止めてくれた。
ごく自然に
それは本当に自然に
まるで空に雲が連なって浮かぶような
川に水が自然に流れるような
そんな風景と溶け込むようにいつだって隣で優しさで包み込んでくれた。






「じゃあ、いってきます」



30センチの身長差。
見上げたら首が痛くなるほどデカい男嫌い。
けれど、ハルはいつだってわたしに目線を合わせてくれて
同じ世界を一緒に見てくれて、わたしに素敵な物を沢山教えてくれるの。
ほら!今も。


少しかがんで、抱き寄せたかと思うと
ふわりと香るハルの匂い。
そして頭を数回優しく撫でて、柔らかく笑うんだ。
そして言うんでしょう?




「いってらっしゃい」




あの頃何度も繰り返されたその言葉。
どれ程特別な物だったか。
あなたは何故にそんな柔らかく優しく微笑めるんだろうか。

ハルの’いってらっしゃい’に続くように、玄関で両手を合わせて座る琴音が鈴のような涼しい音色を出しながら
にゃーとこちらを見上げて鳴く。
まるで’いってらっしゃい’と言っているみたい。






大都会の片隅。
私達は余りに違いすぎて
私達は余りに寂しすぎて
ひとりぼっちより
ふたりぼっちを選択したから


私は、世界中の誰よりも大切なあなたに巡り会えた。