なおもポカンと口を開ける琴子の唇に短いキスをした。
それは琴音にいってらっしゃいのキスをするような短い短いキス。
呆気にとられたような琴子の顔が次第に真っ赤になっていくのが分かって、彼女はその場で石にでもなったかのように硬直する。



「な、何すると?!」


「いや、キスをしたけど?」


「初めてのキスやん、もっとロマンチックにちゅーか…
もっとシチュエーションみたいなもんがあるやんか」


「初めてのキスじゃないけどね~」




意地悪くそう言うと、琴子は更に目を丸くした。
そして直ぐに大声で「どういう事?!」と叫んだ。


ふたりの間に、すっかりと涙はもうなくなっていた。
悲しみや切なさはもうどこかへ吹っ飛んでいったように、そこには笑顔しか残っていなくて



「さぁね~」



あの夜の初めてのキスの事は、暫く内緒にしておこう。
いつだって君の予測不能の行動に振り回されっぱなしだったのだから、それくらいは許していただきたい。
だってこの先も、君には敵いそうにはない。ずっと負けてあげるよ。だから側にいて欲しい。