「そっちこそ」


「いや、ハルの方が泣いとるやん」


「涙の量は琴子の方が多い…」


「絶対にハルの方が多いやん。大雨やん」


「天気予報のように言うな。俺が大雨ならば、琴子は大洪水だ」


どっちの涙が多いかなんて大した問題ではなくて
琴子の肩越しから伝うようにこちらへ琴音が俺の肩の上へやってきて、そしてまた琴子の頬の涙を何度も舐めるのだ。


お互いの顔を見て、一瞬時間は止まり
そして小さな笑みがこみ上げる。
それはいつしか大爆笑に変わって
琴子はいつものように目を線にして、口を横に大きく拡げて、豪快に笑う。
君の、大好きだった微笑み。




あんなに一緒にいたのに、こんなに近くにいたのに、勇気がなくてずっと伝えられなかった。

ひとしきり笑い終えた後、琴子は下を向いて小さな手で俺の大きな手を包み込む。
そうだ君はこんなに小さいのに、いつだって大きな心で包みこんでくれていたのだ。
こんな風に。いつもそれに甘えてばかりで…、今だって、きっとそうだ。




「あのね、あたし…ハルの事が好き。
ハルがあたしの事を何とも思ってなくても、あたしはハルの事が好きでどうしようもなくて
だからこの気持ちを隠して、何も言わずに家を出る事しか出来なかった。
ずっと勇気がなかったの、あたしは風俗嬢だったし、ハルに釣り合いが取れてないからって勝手に自分に劣等感を感じて逃げる事しか出来なかった。

でも、情けなくてもかっこ悪くてもこの気持ちを伝えなきゃ後悔するって
だからね、今日はあたしの気持ちを伝えにきたの。伝えて、きっぱりと振られた方がきっとずっとすっきりすると思った。

あたしは、ハルが好きです―――」