いつだってその小さな君に触れたかった。でもいつだって躊躇っていた。
だってこの手を伸ばし、君に触れてしまったら、小さな君が壊れてしまうような気がして
そんな壊れ物のような宝物を、ずっとずっと大切にしてきた。


でももう、自分の気持ちは止められなかった。
もう決して手放したりはしないよう、琴子の小さな体を強く強く抱きしめた。
俺の中にすっぽりと納まった彼女の小さな体が一瞬ビクッと強張って、鼓動の音が大きくなっていく。それともそれは自分の鼓動だったかは定かではないが
ふたつの鼓動が高鳴り、そして溶け合っていく。
懐かしい香りが鼻を掠めていって、涙が止まらなかった。


男のくせに何泣いてるの?きっと彼女は笑いながらそう言うだろう。


ニャーと鳴き声を発しながら、琴音が俺と琴子の周りをぐるぐると回って、そして彼女の肩にぴょんっと登った。
ゆっくりと顔を上げると、琴音は琴子の肩越しからこちらをジーっと見つめていて、鼻を顔に摺り寄せてきたかと思えば、頬をざらついた舌で何度も何度も舐める。それはまるで涙を拭っているように見える。


けれど何度拭っても拭っても涙はこみ上げてきて
視界はぼやけている。目の前の琴子の表情さえはっきりと見えなくて。




「何で泣いとうの?」


思っているより、ずっと優しい声だった気がする。
彼女の柔らかい手のひらが、涙を拭うと途端に視界が鮮明に見えた。
俺の涙を拭った彼女の瞳からも、同じように大粒の涙が零れ落ちてきた。