22.晴人「’ただいま’の朗らかさ」






「にゃあああああああああんん
うにゃああああああああああん」



琴音が今までに聞いた事のないような鳴き声を出した。
そのさまはまるで発情期の猫。
けれど琴音は去勢手術も済ませた猫だ。

玄関前に座り込んで、扉に向かって激しく鳴き続ける。



「琴音?ごめんな。ちょっと俺外に出てくるから、留守番しておいてくれな」


そう声を掛けたけれど、琴音の耳にはちっとも届いていないらしく、黒目を大きくしてジーっと外へ続く扉を見つめていた。
全くどける気配のない琴音を踏みつけぬよう、そーっと玄関の扉に手を掛ける。


勢いよく扉を開くと、ガンッという鈍い音が室内に響いた。


「いってぇえええ!!!!」


それは、よく知っている声だった。
でも夢のような感覚だった。


ゆっくりと扉を開くと、そこにはその場にしゃがみこみ頭を抱える小さな女の子の姿。
顔を上げたかと思うと、目にはいっぱい涙を溜めてこちらを恨めしそうに睨みつける。

茶色のショートボブ。化粧もいつも見ていたのとは少しだけ違う。
けれどそこにいたのは紛れもなくずっと探し求めていた人の姿そのもので、彼女は小さな目を大きく見開いてこちらを見つめる。


「なんしようと?!」


その場でしゃがみこんだまま、懐かしい博多弁で言った。


髪型やメイクは違えど、そこにいたのは琴子本人で
まるで夢を見ているかのごとく、暫く玄関のドアに手を掛けたまま、動けなかった。


ふっと全身の力が抜けていくのが分かった。
ゆっくりと、倒れ込むようにその場に座り込む。
そして、琴子の顔を何度も確認する。
「痛い」と何度も言いながら頭を押さえている琴子はきょとんと眼を丸くしてそんな俺を見つめ返した。