「いらないよ!大輝から物を買ってもらうなんて乞食みたいじゃんかッ!」
「だってお前、ピーピーギャーギャーうっせぇから」
「いいよ。明日にでも携帯ショップに行く。
保証期間あったし、代機も貸してくれるだろうから。
あ~あ~それにしても悲しい。携帯がないと人生詰んじゃう」
「これだから現代っ子は」
「大輝だって現代っ子でしょ?!」
「俺は携帯が壊れたくらいでそんなにピーピー騒がない。
全く、お前と来たら勝手に人を海に落として置いて
あげく携帯が壊れたと騒ぎやがって。
本当に飽きない女だ、お前は」
海を眺める、大輝の横顔はとても優しかった。
迷惑をかけて、八つ当たりしたとしても、大輝は優しいんだ。
ポケットの中には携帯とキーケース。キーケースは電子機器ではないので、もちろん無事。びしょびしょに濡れはしたけれど。
キーケースの中に取り付けられた鍵が、太陽の光に反射した。
実は
このキーケースには、ふたつの鍵がついている。
今住んでいるアパートのと、そして前ハルと一緒に住んでいたマンションの鍵。
出て来てから、鍵を返し忘れたと気づく失態。
でも元々大家さんからはひとつしか貰わなかった鍵で、合鍵として作ってもらったから、マンションを返す時は平気だったと思うけど、まさか自分がここまで間抜けだとは思わなかった。
賃貸、というものはその都度鍵を変える仕組みらしく
新しい住人がいるか、まだ空になっているか、あのマンションではもうこの鍵は使えない。
使えない鍵は、ただの鍵。もう役目を終えて何の役にも立たないただの金属片。
だけど、そんな物さえ、捨てれずにいる。
わたしはどれだけ女々しい女なのだろう。



