「じゃあ、これからもよろしくね。
本当に、会えて良かった」
別れ際、琴音先輩はそう言って、こちらへ右手を差し出した。
その手を強く握って、あの頃の自分ならば、絶対に口にしない言葉を口にした。
「あの、実は今猫を飼ってまして」
「あぁ!ハルくんち実家でも猫飼ってたよね?
あの狸みたいな雄猫」
「狸って……
あいつは一応シャム猫つー名前が」
「アハハ、ちょ~目つきの悪い猫だったよね?
まだ元気にしているの?」
「はい、あいつは週に2回動物病院に点滴にいってるんすけど、腎臓病で
それでもまだ元気つーか、もうすぐ化け猫になりそうな勢いてか」
「そーなんだぁ、すっごく懐かしい。
今飼ってる猫ちゃんも雄猫?」
「いや、今飼ってるのは雌猫なんですけど
不思議な事に自分ともうひとりの子にしか懐かない結構気難しい子なんですけど、これがまた天使のように可愛くて
そんで…実はその猫の名前を’琴音’っていう名前にしていて。
なんか、初恋の人の名前を使ってなんかもう申し訳ないっていうか、恥ずかしいってか
本当にすいません、気持ち悪い真似をして」
そこまで言ったら琴音先輩は目を丸くして
その後すぐにその日1番の大笑いをした。
その笑った顔は、高校時代の大好きだった琴音先輩そのものだった。
その日の夜、ひとつの決心をした。
もう、大切な物を見落として生きて行きたくはないんだ。



