【完】ボクと風俗嬢と琴の音


「最初は、どこでも良いって考えだったのかもしれないけど
大切な人が、俺の会社の商品だって笑ってくれる姿を見て
そんな商品を世の中に流通させる事に、最近になってやりがいを感じてきたのかもしれません…」


大切な人、と口に出すと
すぐに琴子の顔が思い浮かんだ。
いや、琴子の顔ばかり思い浮かぶんだ。
馬鹿みたいなんだけど、あいつが美味しい美味しいって大口を開けて、色々な物を食べる幸福そうな顔が



「やっぱり、ハルくん変わった
それともハルくんを変えてくれた人に出会えたのかしら?」




ずっとずっと知っていたんだよ。
大切な人だって。
でもどう大切にしたらいいのか分からなくて
そもそも俺の力なんていらないんじゃないかって、どこか卑屈になっていて
そこにあった縁を自ら切り離したのは、誰でもない自分自身だった。

伝えたい言葉は、沢山あった。
少しも難しい言葉じゃなくて、口にしてしまえば簡単な物ばかりだったのに
理由ばかりつけて、自分の自信のなさを棚にあげて、大切な人の幸せを願うなんて
ただの逃げの口実に過ぎなかったのだ。