【完】ボクと風俗嬢と琴の音



「本当は、引き止めてくれるって思ってたの」


大きな瞳がこちらを見つめるたびに、長い睫毛が揺れる。
やはりどこか雰囲気が山岡さんに似ている。
生まれ持ったオーラとか、そういった類だろうか。
華やかさの中に、どこか強さがあるような。自分の中の意思がはっきりとしている瞳だ。


「ううん、引き止めてほしくて、きっと試していたのね。
あの頃の自分を思ったら、子供っぽくて嫌になっちゃう。
自分に自信がなくて、あたしはあなたを試した…」


こんな人の中にでも自分に自信がないって言葉があるのだろうか。
俺は知らなかった。
いや、きっと誰の中にだってあったものなんだ。
笑っているあの人だって、強がって涙を堪えたあの子の中にも、誰の中にも必ず弱さがある。それは自分の中にだけある特別な感情なんかじゃなかった。


優弥にだって、山岡さんにだって、木村さんにだって
そして、琴子の中にだってあった。



「俺の方こそ…本当は別れたくなかったんです。
でも自分に自信がなくて…琴音先輩が決めた事なら仕方がないって…引き止めて自分がかっこ悪い人間って思われるのがすごく嫌でした。
俺って自分に自信がないくせに、プライドだけはいっちょ前にあるみたいで、本当に情けない…
変わりたいって思っていたって、実はあの頃からちっとも変っちゃいなくて今だって仕方がないって自分に言い聞かせて逃げる癖は変わっていないんだと…思います
笑っちゃいますよね?」


「全然、笑わないよ…。それでもきっと人は出会う人の影響で少しずつ変わっていくと思うもの。
その証拠に、ハルくん、こんなに立派になっちゃって」