持ってきた自社の新製品の話よりも、すっかりと思い出話に花を咲かせてしまった。
’健康’をテーマに我が社から新発売される
小さな子供にも優しいビスケット。
それを手に取って、琴音先輩は小さな笑みを落とした。
「ほんっと懐かしい。
話が尽きない。
あの時は本当にショックだったんだから」
「え?」
「あたし、ハルくんに別れようって言ったら、ハルくん、あっさりハイそうですかって言ったじゃない?」
そう言えば、そうだった。
つーかはっきりと覚えているんだけど。
だって、琴音先輩の事はどれだけ引きずった事か。
クソガキだった高校時代、まさか琴音先輩という憧れの人から告白されるなんて夢にも思ってなかった。
その夢が叶って、自分とは全く釣り合いが取れていない彼女がいきなり出来て、冴えなかった高校生活が一変した。
同級生から向けられる羨望の瞳。
先輩からは、生意気だって陰口も叩かれたような気がする。
琴音先輩との付き合いは初めてだらけで、全部新鮮で楽しい事ばかり。
でもやっぱりどこか自分に自信がなくて
振られた時は、あぁやっぱりか、と自分で納得してしまう始末。
本当は、別れたくなかった。
けれど別れるという選択肢を出された以上それに従う以外にその時の自分に選択肢はなくって。
仕方がない。って呪文のように何度も唱えた。



