琴音にご飯をあげて、自分の朝ごはんのグラノーラにヨーグルトをかける。
回して置いた洗濯物を干して、食器を洗って、リビングの座椅子に腰を掛けてコーヒーを飲む。
いつもとなんら変わらない日常。
けれど、物音ひとつしない自分の部屋と反対側の部屋に目を向けると、切なさが胸の奥からこみ上げてくる。



開けっ放しの扉の先には、物は何ひとつ、無い。
それでも埃はたまっていくもので、週に1回は必ず掃除機をかけるようにしている。
待つ人を失った部屋。それはぽっかりと空いた心の穴と少しだけ似ていて、心ばかり窮屈にしていく。





3か月前。
7月になる数日前。
当たり前のように家に帰ったら、琴子の部屋にあった荷物は全て無くなっていた。
綺麗に片付けられた部屋。
まるで初めから何も無かったかのように。
’さよなら’のひとつも残さずに琴子はいなくなった。


琴音は毎日琴子の事を待っていたかのように見えた。
でもそこは猫で、待てど暮らせど琴子が帰って来ない事を理解したと思えばすぐに元通りの生活に戻っていた。
好きな時に甘えて、好きな時に食べて、好きな時に寝て
でも時たま、誰もいなくなった部屋をジーっと見つめて、何か言いたげに俺の瞳を見つめた。




携帯は繋がらなくなった。
ラインからは消えていたし
電話をかけたら「この番号は現在使われておりません――」と機械音の冷たい音声が流れるだけ。



これで良かったんだ。
彼女と繋がる術がなかったかと問われれば、いくらでもあった。
まず琴子の友達のユカリさんと優弥は付き合ってるわけで、優弥から聞いてもらえば、再び彼女と繋がる事はいくらでも出来た。
けれどそうはしなかった。