そう、笑った顔を覚えておいて欲しかった。
大切じゃなくてもいい。
特別じゃなくても構わないから。
一緒にいた時間を、過ごした日々を、たまに思い出して懐かしいなぁって柔らかい気持ちになってくれれば
それだけで良かったはずだ。
大輝はマンションまで送ってくれた。
ありがとう、とお礼を言ったけれど、それも知らんふりで無言のまま’降りれ’と促す。
あんたって本当にいい奴だし、いい男だよ。ハルがいなかったら好きになってたかも、なんて上から目線すぎて絶対に言葉には出さないけどね。
エレベーターに乗って、はやくはやくと逸る気持ちを抑えきれずに何度も足踏みしてしまう。
何を伝えればいいのだろう。考えなくてもいい。自分が思った事を正直に伝えればいい。
この過ごしてきた年月の中で
恋愛感情ではないとしても、ハルの中でわたしが少しでも大切な存在になれていたとしたのなら
いや、ハルにとってわたしが大切な存在じゃなかったとしても
わたしにとってハルは大切な存在だったのだから、それを正直に伝えればいい。嘘偽りのない言葉で、伝えればいいだけだったのに。
「にゃぁ~~ん」
玄関の扉を開けたら
琴音がいつ通り甘えた声で’おかえり’の挨拶。
きゅうううううううん。



