【完】ボクと風俗嬢と琴の音

そんなのズルい。

泣いても泣いても涙が溢れてきて、馬鹿みたいな本音を吐いて、嗚咽を漏らす女を、大輝は一体どんな目で見ていたのだろう。


想いが伝えられないのならば、せめて自分で自分を惨めにだけはしないように
あいついっつも明るかったよな~って…せめて笑った顔だけ覚えてもらえるように
ハルの幸せを願えるような優しい女の子に…体がもう汚くても、心くらいはせめて…


「いいじゃん。そんな本音も。でもぶつける人間違えてるよ。
その本音をぶつけるべき相手は、井上晴人だ」



分かってる。
大輝にぶつけても仕方がないって事は。


瞳から溢れ出す涙を、何度も何度も拭ってくれた。
どうしてわたし、大輝を好きになれないんだろう。
それでも何で、こんなにハルじゃなきゃ駄目なんだろう。



「俺から見た井上晴人のイメージを言ってもいいか?」


「大輝から見た…?」


「あいつはきっととろくてふわぁーとしていて柔らかいマシュマロみたいな奴で
頼りなくて、生真面目で几帳面で男のくせに全然男らしくない。不器用で…言いたい事も呑み込んじまうような男だけど
でも意外に芯はしっかりしていて、大切な物はきちんと分かっていて、それを大切に出来る奴だ。

怒りつー感情あるのかないのか分かんない奴だけど
そんなあいつが怒りの感情で動く時ってのは、必ずそこにお前がいる」


「あたしが馬鹿でハルを怒らせるから?」