そう
店長には、リップスを辞める事を話した。
反対も賛成もされずに、お前が決めた事なら…とだけ言われた。
何かに理由をつけて引き留めるような人だったら、このお店で働いていなかったかもしれない。
辞める事を引き止めない事が、この人がお店の女の子へする最上級の餞だとも知っていた。



決めていた。
決めていたはずなのに、ちょっとした事でぐらついて全部が嫌になってしまう。変わったようで、わたしはちっとも変ってなんかいないんじゃないかって。
前へ進みたいなんてただの綺麗ごとなんじゃないか。
大体風俗を辞めたところでハルがわたしを好きになってくれるわけでもないし、現状何か変わるかと言えば、何も変わらない。
風俗嬢であった過去は消しゴムで簡単に消えてくれやしない。



そんな事考えてたら、全部無駄なんじゃないかとさえ思えてくる。
それならこのまま風俗嬢として生きてった方が楽じゃんね~って、前の駄目な自分に戻ってしまいそうになる。




「あぁ、もしもし大輝?
おう、ココなら事務所にいるぞ。邪魔くさくてかなわん、何とかしてくれ」



?!

ソファーから急いで起き上がり、店長の右耳にぴったりとつけられた携帯電話を奪おうとしても所詮低身長。
何度もジャンプして、止めようとしても、店長はひょいっとそれをかわしていく。
それでも喰らいついて両手で何度も宙を切る。店長はニヤリと笑って煙草を咥えながら電話を続ける。