「それは、わたしが、風俗嬢だから でしょうか?」





ハルが顔を上げて
あの時の優弥さんと同じ顔をした。

太陽が、真っ黒に塗りつぶされていく。
けれどそれはハルが悪いんじゃない。
真っ黒の世界にいたのは誰でもない、わたし自身なのだから。
だから曇りなき笑顔を、わたしが曇らせた。




キャットタワーで腰をおろしていた琴音が
瞬きのひとつもせずに真っ黒な瞳を私たちへ向けていた。




「ちが―――」




手に取っていた服をその場に投げつけて
立ち上がってすぐに自分の部屋のドアを乱暴にしめて
真っ暗な部屋の中で力が抜けて、その場から立てなくなった。




「違う!琴子!違う!
ごめん!俺そういうつもりじゃあ…」


「入らないで!」




歪んでいた世界にいたのはわたしで

本来ならば、あなたと関わりの持つべき人間ではなかった。

太陽に近づいたとして、それに触れる事は出来ないのだ。


そう思ったら、涙がとめどなく流れ落ちた。




「ちが………う」




ドア越しに、ハルの消え入りそうな声が聴こえた。
けれどそれを無視した。

閉じられた扉。

琴音が自由に行き来をしたがるからって
いつも開けっ放しにしていた扉。

扉の向こうから「にゃ~ん…」と寂しそうな鳴き声がして、扉をカリカリと何回か爪でとぐ。
それを何回か琴音は繰り返して、そのうちその音も消えて行った。






長い夜。


正しさとは一体なんだろうか。


わたしは目的もなく、ただ楽だからという理由で風俗嬢を続けてきた。
それは誰かに無理強いをされた訳でもなく、紛れもなく自分自身で選んだ道。
体を売るという事。

それでもハルは、いつだってわたしへ偽りなき
太陽のような笑顔を見せてくれたから。

何を勘違いしてしまったのだろう。
太陽は誰の上にも公平に眩い光りを灯し続ける。
初めから手の届かない物だと知りながら、何故求めてしまったのだろうか。