「1年経ってもここで一緒に暮らすという選択肢は?」
思わず顔が強張る。
「ない、ないよ」
「それならば、タワーマンションは?」
「その選択肢は、もっとない。
大体家賃が支払えない」
「じゃあ、琴子が支払えるくらいの家賃の物件を探しておく」
「本当に優しい人だね」
「ペット可の、一人暮らしの物件を」
うーんと頭をひねったら
琴音の顔がポンっと浮かび上がってきた。
靴下履いた肩乗り猫。
ふわふわのの長毛種。お花みたいにゆらゆら揺れる尻尾。
ビー玉みたいな、緑色の瞳。
太陽よりももっと上にある
神様。
「ペット可じゃなくていい。
やっぱり琴音以外の猫を飼う選択肢もない」
「神様だからな。
じゃあ、とりあえず良さげな物件は探しておく」
いない。
あの子の代わりも、どこにもいない。
それならば、ひとりぼっちの方がマシだ。
夜空にはぽっかりと浮かぶ月明かり。
夜はどこまでも深くわたしをひとりぼっちの様な気分にさせるから
早く朝が来てしまえばいい。
「ただいまー、お。琴音」
帰ったらいつものように琴音がすり寄ってきて
にゃーんと言いながら甘える。
リビングでテレビを見ているハルがこちらをちらりと見た。
太陽は、きっと優しい笑顔のような物だと
頑なだった心さえも突き動かすほどの、柔らかい物だったのだと



