「はぁ?!お前に関係ねぇだろ!!」
「あんた、いま席空いたと思ったらすぐに座ったでしょう?!
元気な奴は席を譲れよ!!」
「あァ?!」
柄の悪そうな男は再び琴子へ凄んだ。
しかし琴子は少しも譲らなそうで
このままだと喧嘩でも巻き起こってしまいそうだ。
まずい。
そう思って「スイマセン、スイマセン」と人混みをかき分けて、琴子たちのいる場所へ向かう。
「大丈夫ですか?」
琴子の後ろにいる女性に声を掛けると
琴子と男が一斉にこちらへ視線を向けた。
それと同時に男は、女性のバックについていた妊婦のキーホルダーに気が付いたらしく
「チッ」と舌打ちをして立ち上がり、別の車両へ消えて行った。
「ハル!!!」
「どうぞ」
と言ったら妊婦の女性は「ありがとうございます」と俺と琴子に何度も言って、席に座った。
満員電車の中で
小さく押しつぶされそうな琴子の後ろに立って
潰されないように両手でガードをした。
「びっくり、同じ車両なんて」
後ろを向いたまま琴子が言った。
「びっくりはこっちの台詞。
あんないきなり喧嘩腰で言っても相手に伝わらない事だってあるよ。
妊娠してる女性がいるから、席を譲ってくださいって言わないと」
そうたしなめると
琴子はこちらへ顔だけ向けて
少し膨れた顔をした。



