わたし


わたしは自分の名を知りません。
そもそも名前の概念がない世界に存在するものです。



猫かわいそう。


おぼろげな記憶の中で、小さな兄弟がわたしを’猫’と呼ぶのです。


だからわたしは自分が猫なのだと気づきました。


寒くて暗い場所にいました。
必死に声を振り絞り、泣き叫びました。



その世界はわたし以外は存在しない
ひとりぼっちの世界なのです。


さむくて
くらくて
こわい
世界だったのです。



そこにどれくらいいたのでしょうか。
それはすごく長くも感じたし、もしかしたらすごく短かったかもしれません。


突如開かれた世界。
わたしは暖かい温もりに包まれて、この目で光りを見て、安心して
誰かの胸の中で深い眠りに落ちてしまったのです。





わたしは猫。


でもいま、わたしの前にいる生き物はわたしに温もりを与え
名前をプレゼントしてくれたのです。



その温もりはわたしの身体を抱きしめて
「琴音」と優しく呼ぶのです。




ありがとう
  
  ありがとう
      
         ありがとう





温もりをありがとう


光りをありがとう



優しさを わたしにくれて ありがとう