「でもそれがどこなのかとか、まったく覚えてないんだよなあ」


ユウトは独り言のように呟いた。

あたしにはなんとなく、前に夢に見た情景が思い浮かんだけど、何も言わなかった。

海には、白い波ばかりが浮かんでいた。



もともと厚い雲に覆われて薄暗かった空が、更に暗さを増していった。

それにつれて、海も不気味なほど色を濃くする。


「ユウト、帰ろう?」


あたしはユウトに言った。
立ち上がってはみたけれど、ユウトは腰を上げない。繋いでいた手だけが空をさ迷う。


「サナ、」


ユウトがあたしを見た。強い風が吹いて、あたしの髪がばさばさと靡いた。


「ごめん」