「そうそう。何かあれって無性に食いたくなるよな。今日帰るときヒナに言おうと思ってたんだ。」
この何でも完璧にこなす男、佐野遊馬。こいつに私は、ルックスも勉強もスポーツだって、一度も勝てたことはない。
だけど唯一、遊馬に勝てることをあげるとしたら、料理。あとその他諸々の家事。
両親共働きであるからこそ培ったスキル。これだけは遊馬に負けない自信がある。
遊馬も私の料理の腕は認めてくれていて、夕飯をうちに食べにくることもしばしば。
私の数ある料理のレパートリーの中でも、遊馬のお墨付きは、かぼちゃがごろごろ入ったグラタンなんだ。
「うん、いーよ。遊馬普段ろくな食生活送ってないんだから。」
「……一人で暮らしてると自分の飯なんてどうでもよくなるんだって。」
「じゃあ今日のグラタンにはかぼちゃ以外にもたっぷり野菜入れて、栄養満タンの献立にしてあげるから。楽しみにしててよね。」
「おう、それは楽しみですねー」
多きな目を三日月みたいに細めて、幼い笑顔をみせる遊馬。
多分遊馬のこんな小さい子みたいな無邪気な笑顔、学校の子達は知らないんだろうな。
…そんなことをふと思いながら、残りの帰路を進んだ。
